X-Ray Photoelectron Spectroscopy of BaTiO3 Mesocrystals
Yuji Adachi, Syozo Takada, Shigemi Kohiki*, Akihiko Shimizu,
Masaoki Oku† and Masanori Mitome††
Department of Materials Science, Faculty of Engineering, Kyusyu Institute of
Technology; Tobata-ku, Kita-kyusyu-shi 804-8550 Japan
†Institute for Material Reserch, Tohoku University; Aoba-ku, Sendai-shi 980-8577 Japan
††National Institute for Research in Inorganic Materials; Tsukuba-shi 305-0044 Japan
Mesocrystals of BaTiO3 were fabricated by soaking a molecular sieve to precursor solutions with various concentrations and calcination in flowing oxygen at 700 ℃. Chemical shifts of the Ti 2p3/2 electron binding energy were 0.6, 1.4 and 1.8 eV for the BaTiO3 mesocrystals from the precursor solutions of 0.1, 0.04 and 0.004 mol/L, respectively, while the chemical shift of the Ba 3d5/2 electron binding energy was 2.9 eV for the mesocrystals from any precursor solutions. X-Ray photoelectron spectroscopy revealed that less interpore electronic relaxation between the filled pores with BaTiO3 mesocrystals brings about larger blue shift of the optical absorption edge for diluted systems.
BaTiO3メソ結晶のX線光電子分光
安達祐次・高田省三・古曵重美*・清水昭彦・
奥 正興†・三留正則††
九州工業大学工学部物質工学科, 804-8550 北九州市戸畑区仙水町 1-1
†東北大学金属材料研究所, 980-8577 仙台市青葉区片平 2-1-1
††科学技術庁無機材質研究所, 305-0044 つくば市並木 1-1
各種濃度のBaTiO3前駆物質溶液を用いてメソ多孔体ケイ酸塩の細孔内に担持作製したBaTiO3メソ結晶とケイ酸塩のアモルファスSiO2壁との相互作用をX線光電子分光法により解明した。Ti 2p3/2電子束縛エネルギーの化学シフトは0.004, 0.04, 0.1 mol/Lの前駆物質溶液から作製したBaTiO3メソ結晶において、それぞれ1.8, 1.4, 0.6 eVであった。一方、Ba 3d5/2電子束縛エネルギーの化学シフトはどの前駆物質溶液からのメソ結晶においても2.9 eVであった。BaTiO3メソ結晶ではTiとBaの空孔状態における原子外緩和エネルギーが異なる。Ti 2p3/2電子束縛エネルギーはTi ? O結合を通じた隣接メソ結晶間の電荷移動とSiO2壁の正負イオンの誘電変位のどちらともによって影響されるが、Ba 3d5/2電子束縛エネルギーはSiO2壁の正負イオンの誘電変位のみに影響される。これは、BaTiO3メソ結晶により満たされたメソ孔間でTi ? O結合を通じたメソ結晶間の電荷移動が生じること、この相互作用はより希薄な系で大きく減少し、光吸収端のより大きなブルーシフトを引き起こしていることを示唆する。
1 緒言
電子をド・ブロイ波長程度以下の領域に閉じ込めた際に発現する量子サイズ効果の研究は、その物性が原子・分子の微視的な世界とバルクの巨視的な世界をつなぐメソスコピック領域で発現することから、学術的に興味深いだけでなく、実用的にも新しい領域を拓くものとして期待されている。強誘電体の量子サイズ効果の研究は、強誘電性の起源解明につながる理学的基礎研究としてのみではなく、非線形新奇物性発現の期待から工学的にも重要である。著者らはすでに8―9Åの厚みのSiO2壁によって隔てられた周期的六方細孔からなるメソポーラスシリカMCM-41の細孔内へ、変位型強誘電体BaTiO3格子を導入して作製したBaTiO3メソ結晶の誘電的・光学的特性の量子サイズ効果を報告した。1)BaTiO3メソ結晶の特性解明にはMCM-41のアモルファスSiO2壁とBaTiO3メソ結晶との相互作用を明らかにすることが必要となる。本研究では、さまざまな濃度のBaTiO3前駆物質溶液を用いてMCM-41の細孔内に担持作製したBaTiO3メソ結晶とアモルファスSiO2壁との相互作用をX線光電子分光法により解明した。
2 実験
BaTiO3メソ結晶を作製するために、まずメソ結晶の鋳型となるメソ多孔体MCM-41を作製した。これをBaTiO3前駆物質水溶液に浸漬し、乾燥、そして焼成することによりBaTiO3メソ結晶を得た。
MCM-41合成溶液の組成はモル比で1.00 SiO2:0.70 CnH2n+1N(CH3)3R(n=12, R=Cl):0.24 NaOH: 53.7 H2Oとした。これを密閉容器に入れ140 ℃で48時間加熱し、約80 ℃で24時間水洗し、乾燥した後、酸素気流中700 ℃で6時間焼成してMCM-41を得た。これを、等モルのBa(OH)2・8H2O (98%,関東化学(株))とTiCl4 (特級,和光純薬工業(株))を含む各濃度(0.1, 0.04, 0.004 mol/L)のBaTiO3前駆物質水溶液に24時間浸漬、撹拌した後、乾燥し、さらに酸素気流中700 ℃で3時間焼成した。比較対照用の粉末試料も同じ条件で作製した。
作製した試料について、X線回折法により生成相を調べ、積分球を併用した可視紫外分光光度計により拡散反射スペクトルを測定した。X線光電子分光測定は単色化Al K?線を励起源とし、SSX-100電子分光器を用いて、室温で行った。分光器のパルスエネルギーを50 eVとし、スポット径を300 ?mとした。Au 4f7/2電子を83.79 eVとして分光器を校正した。Au 4f7/2ピークの半値幅は1.03 eVであった。分光器の真空度は5.3×10-8 Paであった。
3 結果と考察
MCM-41、BaTiO3担持試料(前駆物質溶液濃度0.004 mol/L)、および参照用BaTiO3粉末(0.1 mol/L溶液を乾燥、焼成して作製)のX線回折パターンをFig. 1に示す。Fig. 1 aに示すMCM-41では、10゜以下の低角度領域に六回対称を反映する回折ピークが認められた。そのd100反射から算出した六角細孔の大きさは約 39Å(a = 2d100/√3, d100=34Å)となる。壁の厚さを8―9Å2)−4)とすると細孔径は?30Åとなる。Fig. 1 bに0.004 mol/Lの例を代表として示したが、各濃度の前駆物質溶液から作製したBaTiO3担持試料はこれと同様にBaTiO3バルクの回折ピーク(Fig. 1 c)を示さなかった。MCM-41の外表面にBaTiO3結晶が付着していたとしても、相互の並進対称性を保持し得ないBaTiO3メソ結晶であることになる。
次にBaTiO3担持試料(前駆物質溶液濃度0.004 mol/L)の透過電子顕微鏡(TEM)による電子線回折図形をFig. 2に示す。回折図形がスポット状にならず、ある方向に伸びた線のように見えるしまが多数観測されている。これは試料が針状構造の束になっているためであると考えられる。このしま状の明るい部分は格子面間隔2.8Åに相当しBaTiO3の(110)反射と一致する。濃度0.1 mol/LのBaTiO3担持試料においても同様な結果が得られており、細孔内にBaTiO3メソ結晶が閉じ込められていると考えられる。
BaTiO3担持試料(前駆物質溶液濃度0.004 mol/L)とBaTiO3粉末(バルク)試料の吸収端付近における拡散反射スペクトルをFig. 3に、各試料の光吸収端のエネルギーをTable 1に示す。もちろん、MCM-41では2.5―4.0 eVの範囲内に吸収端が存在しない。BaTiO3担持試料の吸収端は、バルクのそれ(3.02 eV)と比較して高エネルギー側へシフトした。これは、半導体の量子サイズ効果でよく知られているように、電子波動関数の量子閉じ込め効果によるものである。また、最も前駆物質溶液濃度の小さい0.004 mol/L溶液から作製したメソ結晶で最も顕著に吸収端のブルーシフト(3.02 eV → 3.35 eV)が見られた。前駆物質溶液濃度の大きな0.1 mol/L溶液から作製したメソ結晶の吸収端はバルクのそれとほぼ一致した。このシフト量の前駆物質溶液濃度依存性は希釈効果、すなわちBaTiO3メソ結晶の数密度減少に伴うメソ結晶で満たされたメソ孔同士の相互作用の減少を示唆している。
BaTiO3担持試料(前駆物質溶液濃度0.004 mol/L)およびBaTiO3バルクのTi 2p, Ba 3d内殻電子スペクトルをFig. 4に、各試料のTi 2p3/2、およびBa 3d5/2電子束縛エネルギーをTable 2に示す。Ti 2p3/2電子束縛エネルギーの化学シフトは、0.004, 0.04, 0.1 mol/Lの前駆物質溶液から作製したBaTiO3メソ結晶では、それぞれ、1.8, 1.4, 0.6 eVであった。Ba 3d5/2電子束縛エネルギーの化学シフトは、どの濃度の前駆物質溶液から作製した試料においても2.9 eVであった。一電子近似では、BaTiO3メソ結晶からMCM-41のアモルファスSiO2壁への電荷移動は二つのカチオン(Ba, Ti)で同等の正のシフトでなければならない。しかし、観測されたシフトは互いに異なっている。この化学シフトの不一致は、BaTiO3メソ結晶のTi - O, B a - O結合の原子外緩和エネルギーの違いによるものである。
絶縁性の壁(SiO2)によって囲まれたメソ結晶の電子束縛エネルギーは、バルク結晶と比較すると原子緩和エネルギーの減少により大きくなる。このことは、さまざまな基板上の原子小クラスターの内殻電子束縛エネルギーの研究で明らかにされている5)。Ti 2p3/2スペクトルでは電荷移動によるシェイクアップサテライトが観測されているのに対し、Ba 3d5/2スペクトルではそれが観測されていないことからTi ? O結合は共有結合的であり、Ba ? O結合はイオン結合的であるといえる。共有結合的なTi ? O結合の原子外緩和エネルギーは、メソ結晶中の空孔による正電荷をしゃへいするd ? p結合軌道の価電子の流れと、メソ結晶中の分極を補償するため平衡位置からイオンが移動することによるSiO2壁の分極のどちらからも生ずる。イオン結合的なBa ? O結合では、メソ結晶中で容易に電子緩和を生じることはできない。したがって、イオン結合的Ba ? O結合の原子外緩和エネルギーは共有結合的Ti ? O結合のそれよりも小さくなる。
Fadleyら6)、CitrinそしてThomas7)はMottとGurneyのモデル8)を用いて分極エネルギーを評価している。イオンモデルにおいて、Ba原子の分極エネルギーは次式によって表される。
Epol(bulk) = (−1/2rBa atom)[1−(1/?bulk)]
Epol(mesocrystal) = (−1/2rmesocrystal)[1−(1/?mesocrystal)]
ここでrは空孔の有効半径、?は誘電率である。また、?mesocrystalおよび ?bulkはそれぞれ20と200である。Ba原子(Ba 6s軌道半径)およびメソ結晶の半径はそれぞれ2.3Åと15Åである。したがって、BaのΔEpol(bulk→mesocrystal)は−2.6 eVとなる。Ba 3d5/2電子束縛エネルギーのシフトが2.9 eVであることから、0.3 eVの軌道エネルギーシフトがBaTiO3メソ結晶からMCM-41の壁への電荷移動によって生じたと考えられる。
Ti 2p原子外緩和エネルギーの濃度効果は、担持濃度低下に伴うメソ結晶中の電荷移動の低減によるものである。これは、担持溶液濃度の減少によりBaTiO3メソ結晶の光吸収端が高エネルギー側へシフトすることと対応している。担持濃度が高い場合は、光吸収端のエネルギーがバルクのそれと同じなので、量子閉じ込めが生じたBaTiO3カラム同士が染み出した波動関数の重なりにより相互作用を生じていると考えられる。BaTiO3は大きな誘電率(?r ≒ 200)と有効電荷質量(me* = 6.5m0)9)を有している。エキシトンの波動関数は大きく、約15Åの有効ボーア半径aB*となる。MCM-41の壁厚はaB*よりも小さい(d?10Å)ので、満たされた孔中の励起された電子は隣接する満たされた孔へ移動することができる。担持濃度が低い場合は、BaTiO3メソ結晶で満たされたカラム同士の間隔が増大し、カラム間の相互作用が減少して、カラム間の電荷移動が減少することになる。
4 結論
Ti 2p3/2電子束縛エネルギーの化学シフトは0.004, 0.04, 0.1 mol/Lの前駆物質溶液から作製したMCM-41孔中のBaTiO3メソ結晶において、それぞれ1.8, 1.4, 0.6 eVであった。Ba 3d5/2電子束縛エネルギーの化学シフトはどの前駆物質溶液からのメソ結晶においても2.9 eVであった。BaTiO3メソ結晶ではTiとBaの空孔状態における原子外緩和エネルギーが異なる。Ti 2p3/2電子束縛エネルギーはTi ? O結合を通じた隣接メソ結晶間の電荷移動とSiO2壁の正負イオンの誘電変位のどちらからも影響されるが、Ba 3d5/2電子束縛エネルギーはSiO2壁の正負イオンの誘電変位のみに影響される。これは、メソ結晶で満たされた孔同士の孔間相互作用が光吸収端のブルーシフトの大小と関係していることを示唆する。
Figure captions
Fig. 1 X-Ray diffraction patterns of the MCM-41 (a), the soaked sample
with 0.004 mol/L solution (b) and the BaTiO3 particles (c).
●:BaTiO3, ■:MCM-41.
Fig. 2 Transmission electron micrograph of the soaked sample with 0.004
mol/L solution.
Fig. 3 Ultraviolet-visible spectra of the BaTiO3 particles (a) and the soaked
sample with 0.004 mol/L solution (b).
Fig. 4 Ti 2p (left panel) and Ba 3d (right panel) electron spectra of
the BaTiO3 particles (a) and the soaked sample with 0.004 mol/L
solution (b).
Table captions
Table 1 Optical absorption energy of the BaTiO3 particles (a) and the soaked
samples with 0.004 (b), 0.04 (c), 0.1 (d) mol/L solutions.
Table 2 The Ti 2p3/2 and Ba 3d5/2 electrons binding energy of the BaTiO3
particles (a) and the soaked samples with 0.004 (b), 0.04 (c), 0.1 (d)
mol/L solutions.