Preparation and characterization of In2O3:Lix(x = 0−1.0)
Ryuta Kiyoshima, Shigemi Kohiki *, Shigenori Matsushima† and Masaoki Oku††
Department of Materials Science, Faculty of Engineering, Kyusyu Institute of
Technology; Tobata-ku, Kita-kyusyu-shi 804-8550 Japan
†Kitakyusyu National College of Technology; Kokuraminami-ku, Kita-kyusyu-shi
803-0985 Japan
††Institute for Material Reserch, Tohoku University; Aoba-ku, Sendai-shi 980-8577 Japan
Lithium−doped indium oxide crystals (In2O3 : Lix, x = 0−1.0) were synthesized by calcination in flowing oxygen of dried powders from aqueous solutions of InCl3 with Li. Only the peaks from cubic In2O3 crystal were observed in X-Ray diffraction (XD). The lattice constant increased from 10.116 to 10.163 Å, and the optical absorption energy decreased from 2.72 to 2.68 eV with increasing x in In2O3 : Lix. The lattice constant estimated by XD and the optical absorption edge in UV-visible absorption spectrometry remained at constants (10.163 Å and 2.68 eV) in the region of x = 0.5−1.0. Tight-binding (TB) band-structure calculations were performed for studying changes in the electronic structure with Li doping. The calculated energy splitting between the top of the valence band and the bottom of the conduction band decreased by Li doping at the empty sites (8a and 16c) of pure In2O3 crystal, which was consistent with the experimental decrements of the absorption energy with x in In2O3 : Lix. Changes in the valence band spectra by X-Ray photoelectron spectroscopy of the In2O3 : Lix (x = 0, 0.2 and 1.0) agree with that in the density of states by the TB calculation for two Li atoms doped at 8a or at 16c sites of In2O3 crystal. Doping of Li atoms into the interstitial sites affects both on the valence band and the conduction band minimum of the In2O3 crystal.
In2O3:Lix(x = 0−1.0)の合成とキャラクタリゼーション
清島隆太・古曵重美*・松嶋茂憲†・奥 正興††
九州工業大学工学部物質工学科, 804-8550 北九州市戸畑区仙水町1-1
† 北九州工業高等専門学校, 803-0985 北九州市小倉南区志井 5-20-1
†† 東北大学金属材料研究所, 980-8577 仙台市青葉区片平2-1-1
In2O3:Lix(x = 0−In1.0)を合成し、In2O3へのLi添加効果を明らかにした。Li添加により、In2O3立方格子の格子定数が10.116 Åから10.163 Åに増大し、光吸収エネルギーが2.72 eVから2.68 eVに減少した。x = 0.5−1.0の範囲では格子定数と光吸収エネルギーはそれぞれ一定(10.163 Åと2.68 eV)であった。強結合近似エネルギーバンド計算より、In2O3結晶の8aや16c空サイトにLiを導入すると、完全結晶と比較して、いずれも価電子帯と伝導帯間のエネルギーギャップが減少することがわかった。これは、Li添加による光学ギャップの減少を支持している。In2O3:Lix(x = 0, 0.2,1.0)の内殻電子束縛エネルギーに変化は認められなかった。しかし、Li添加量の増大に伴う価電子帯全域にわたるスペクトル強度の増大が認められ、これは8aサイトや16c空サイトに2個Liを導入したバンド計算とよく一致している。
1 緒言
化学量論比組成のIn2O3は広いバンドギャップを持つ絶縁体であるが、Snを添加すると金属に匹敵する電子伝導性を示す。しかも、可視光透過性にも優れていることから、太陽電池や液晶ディスプレイの透明電極として広く用いられている。一般にSn−doped In2O3(ITO)では、In3+副格子点に置換固溶したSn4+や酸素空孔がドナーになっていると考えられているが、その固体電子構造に関する理解はあまり進んでいない。Sn以外にも、4価あるいは2価の陽イオンを添加した報告例はあるが、1)−4)その添加効果に関しても不明な点が多いのが現状である。これは、In2O3が複雑な結晶構造(C−希土型構造)を持っていることや、その単位構造中に含まれる原子数が80と非常に多いため、理論的解析が容易でないためと考えられる。
本研究では、これまで検討例のない1価イオン(Li+)を添加したIn2O3を調製し、光学測定や電子分光測定から固体電子構造を実験的に明らかにするとともに、エネルギーバンド計算により理論的解析を実施し、Liの添加効果について知見を得たのでここに報告する。
2 実験
InCl3を蒸留水に溶解させ、モル比で[Li]/[In2O3]=0−1.0となるようにLi+を添加し、室温で24時間攪拌した。この溶液を乾燥した後、酸素気流中で900℃、1時間焼成した。得られた粉末について、走査型電子顕微鏡により組織観察を行い、X線回折法により生成相の同定と格子定数の決定を行い、積分球を併用して可視紫外分光光度計により拡散反射スペクトルを測定した。また、エネルギーバンド計算は半経験的強結合近似法5)により実施した。計算で使用するk点はスペシャルポイント法6)に従って8点とした。X線光電子分光法(XPS)は、単色化Al Kα線を励起源とし、室温において測定した。分光器の到達真空度は1×10-9 Torr以上である。Au 4f7/2電子を83.79 eVとして分光器を較正した。Au 4f7/2ピークの半値幅は1.03 eVであった。この測定における統計誤差は、±0.1 eVである。
3 結果と考察
3.1 組織観察
Fig.1(a)−(d)にIn2O3:Lix(x=0, 0.2, 0.5, 1.0)の二次電子(SEM)像を示す。x=0では、約0.8 ?m程度の微粒子が鎖状に連なっており、全体として無配向的に分布している。x=0.2では、約1.5 ?m程度の比較的大きな粒子と微細な粒子が混在して観察される。xが0.5以上では粒径が2−3 ?mと増大し、その形状は正八面体的であった。Li添加量の増加に伴う粒子径の増大は、Liが粒成長を促進していることを示唆している。
Fig.1(e)には成長途中の八面体が捉えられており、微粒子同士が結合して八面体を形成しているのがわかる。Liが表面で溶融層を形成し、それが微粒子同士をつなぐ接着剤として作用することによって粒成長が進行しているものと考えられる。
3.2 結晶構造
In2O3:Lix(x=0, 0.2, 0.5, 1.0)に関するX線回折パターンをFig.2に示す。x値の増加とともに、回折ピークは低角側へシフトする傾向にあり、Li添加によって面間隔が広がっていることを示している。x = 1.0においても、Li2OやLiInO2などに帰属される異相は検出されず、In2O3に帰属される回折ピークのみが観測された。Fig.3には面間隔から求めた各試料の格子定数を示している。In2O3:Lix(x=0)の格子定数a=10.116 ÅはIn2O3のそれ (a=10.117 Å)7)と誤差範囲内で一致している。x=0.3まではLi添加量の増加につれて格子定数aがほぼ直線的に増大し、Vegard則8)に従う傾向を示した。In2O3結晶の空間群はIa3であり9)、C-希土型構造の立方晶単位格子は酸化物イオンが欠けた8個の螢石構造の単位格子の組み合わせから成る。C−希土型構造では8bサイトと24dサイトをIn、48eサイトをOが占有しており、8aと16cサイトは空である。Li+のイオン半径は0.90 Åであり、In3+のイオン半径:0.94 Åに近い10)。このため、Liは8aあるいは16cサイトに存在している可能性が指摘される。この予測はIn2O3に対するLiの固溶限界がx = 0.5付近であることからも支持される。Li+が8aや16cサイトに導入されると、面心立方型配列を持つIn3+との間に陽イオン同士の過剰な反発エネルギーが生じ、格子定数が伸長することになる。なお、Li添加量が0.5以上では、格子定数が飽和していることから、Liは格子内だけでなく粒界にも存在すると考えられる。
3.3 光学特性
In2O3:Lix(x=0, 0.2, 1.0)の拡散反射スペクトルをFig.4に示す。各試料の吸収端は約2.7 eVであり、外観は黄色味を帯びていた。これはΗ点とΓ点との間の間接遷移によるものであり11)、この値はWeiherらによる実験結果12)とほぼ一致する。Fig.5に示すように、添加量の増加により吸収端がレッドシフトしたが、x=0.5以上で飽和した。また、Li添加と共に吸収スペクトルの傾きが増大した。これは間接遷移にかかわる状態間のエネルギー差の減少と状態密度の増大によるものと考えられる。
3.4 バンド計算
エネルギーバンド計算は、Liを8aサイトあるいは16cサイトに導入し、最近接相互作用のみを考慮して実施した。In2O3完全結晶の電子状態密度をFig.6(a),各サイトにLiを添加したIn2O3結晶の全状態密度およびLi 2s軌道の部分状態密度を、Fig.6(b)−(e)に示している。各状態密度曲線の作成には0.2 eVの半価幅を持つGauss型関数を用いた。 In2O3完全結晶ではIn 5s軌道が伝導帯の下端,O 2p軌道が価電子帯の上端をそれぞれ形成している。8aサイトにLiを導入すると、Fig.6(b)および(c)に示すように完全結晶では見られない状態密度が伝導帯の下端や価電子帯に出現する。Liを1個導入した場合、伝導帯の下端にLi 2s反結合性軌道に起因する新しい状態密度が形成される。Liが2個の場合には、価電子帯上端から価電子帯全体にわたって新たな状態密度が現れる。Fig.6(d)および(e)には 16cサイトにLiを2個導入したときのIn2O3の状態密度を示す。8a サイトに2個のLiを導入した場合とほぼ同様の傾向が見られている。16cサイトにLiを2個導入するとき、配位数が3(Li−O)の場合と比較して、6[(Li−O)×3,(Li−In)×3]の場合は伝導帯下端に新しく大きな状態密度が形成され、全状態密度にも顕著な変化が生じている。これは、部分状態密度の比較からLi−O相互作用よりもIn−Liの金属−金属相互作用から生じていることがわかった。
最近接相互作用のみの計算で得られたエネルギーギャップは、完全結晶で約6.6 eVであり、実験値(約2.7 eV)に比べてかなり大きい。第二、第三相互作用まで含めることによりエネルギーギャップは実験値により近い値が得られると考えられる。8aサイト, 16cサイトのいずれにおいても、Liを導入することにより、完全結晶では見られない状態密度が伝導帯の下端や価電子帯に生じ、エネルギーギャップが減少する傾向を示した。これは、Li添加によるエネルギーギャップの減少を支持している。
3.5 X線光電子分光
In2O3:Lix(x=0,0.2,1.0)のIn 3d, O 1s内殻スペクトルをFig.7に示す。Li添加量の増加にかかわらず、In 3dとO 1s電子の束縛エネルギーに変化は認められなかった。In2O3:Lix(x=0,0.2,1.0)の価電子帯スペクトルをFig.8に示す。Li添加量の増大に伴い、約1.0−8.5 eV付近のスペクトル強度が増大した。これは、8aサイトや16c空サイトに2個Liを導入したバンド計算と一致している。
4 結論
In2O3:Lix(x=0−1.0)の組織、結晶構造、光学特性を調べ、In2O3へのLiドーピング効果を明らかにした。
x=1.0の試料においても異相は存在せず、すべての試料でIn2O3の回折ピークのみが認められた。その格子定数はx=0.3まで直線的に増加し、x=0.5以上では一定となった。これは、LiがIn2O3の8aサイトや16c空サイトに導入されたためと考えられる。
光吸収端はLi添加量の増大に伴い、減少する傾向を示したが、格子定数増大の飽和と対応するx=0.5以上で一定となった。
最近接相互作用のみを考慮したIn2O3完全結晶のバンド計算において、得られたエネルギーギャップは約 6.6 eVであり、実験値(約2.7 eV)に比べてかなり大きい値を示したが、Liを8aまたは16c空サイトへ導入することにより、完全結晶では見られない状態密度が伝導帯の下端、もしくは価電子帯に現れ、エネルギーギャップが減少するという結果が得られた。これは、Li添加による光学ギャップの減少を支持している。
Li添加量の増加にかかわらず、In2O3:Lix (x=0, 0.2, 1.0)のIn 3dとO 1s内殻スペクトルに変化は認められなかった。しかし、価電子帯スペクトルはLi添加量の増大に伴い、約1.0−8.5 eV付近でスペクトル強度の増大が認められた。これは、8aサイトや16c空サイトに2個Liを導入したバンド計算と一致している。
1) Y. Kanai, Jpn. J. Appl. Phys., 24, 361(1985).
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