ダイヤモンドは炭素原子のみが共有結合して形成された、結晶性無機化合物である。ダイヤモンドは、高い熱伝導率、広い波長領域での透明性、大きなバンドギャップ、高い化学的安定性、などの特異な物性(これらの物性は、バルク(塊)のダイヤモンドが有する物理的な特性である)を数多く併せ持つため、様々な工業分野で新規材料として応用されることが期待されている。
 ダイヤモンド自体は炭素原子のみから構成されていますが、ダイヤモンドの表面は炭素原子では終端することができず、酸素原子や水素原子などの異種元素と結合することにより安定化しています。ダイヤモンド表面の特性は、終端状態で大きく変化します。例えば、水素化表面はp型半導体で疎水性を示し、酸素化表面は電気的絶縁性で親水性を示します。したがって、ダイヤモンド表面の状態を制御して機能性を付与することができれば、ダイヤモンド自体の特異な物性と表面の特性を併せ持つ新規な材料を創製できる可能性があります。
 これまでのダイヤモンド表面に関する研究は、CVD法(気体原料から化学反応を経由して薄膜を作製する方法)でダイヤモンドを合成する際の成長機構の解明を目的として行われてきました。したがって、真空装置を使用して気体試薬との反応性を電子線回折やX線光電子分光などの方法で解析する、表面物理的手法で研究が進められてきました。
 水素化されたダイヤモンド表面は、有機化学的観点から考えると、アルカン(飽和炭化水素)に類似した状態のように見えます。そこで、有機化学的な方法(つまり大気圧、液体中、穏和な温度条件)でダイヤモンド表面に有機官能基を導入できるのではないかと考え、研究を始めました。
 現在までに、Fig. 1に示すような官能基を導入できることを世界で始めて見出しています。

 ダイヤモンド表面に有機官能基を導入できれば、化学センサ、DNAチップ、高分子との複合材料、などの新規な工業的応用を開拓できることが近年提唱され始め、研究が行われ始めました(Fig. 2)。現在、アメリカの研究グループが真空装置を使用した有機官能基の導入方法を研究していますが、有機化学的な方法(大気圧、液体中、穏和な温度条件)で行っているのは、世界中で本研究室と産総研の二研究機関のみです。

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